トークセミナーレポート「地方在住20代 まちなか暮らし女子 と考える“暮らし方と豊かさ”」

藤田和俊さん (カメラマン、ライター、編集者)

▽prologue

 鳥取駅前の雑居ビルに、近頃あかりが灯っているのに気づいた人もいるかもしれません。鳥取民藝美術館などが並ぶ「民藝館通り」にあり、かつて陶器屋さんがあった通称「マツキビル」。ここが今年、シェアハウスやシェアスペース、人が集まる拠点として生まれ変ろうとしています。仕掛け人は、“「自分たちの暮らしが誇れるまち」をつくる”をビジョンに掲げる一般社団法人まるにわ。これからの時代の新しい暮らしや働き方を考えようと、「まるにわweek」と題したイベントを開きました。
 その中で、「暮らし」と「働き方」の2つのテーマでトークセミナーを開催。新型コロナウイルスの影響でzoomを使ったオンライン開催となりましたが、内容の濃いトークセッションとなりました。価値観や経済や政治…、様々な旧来のものが見直されるご時世。生き方自体を考える人は少なくないですが、今回のトークには何かしらのヒントが散らばっているように思ったので、ぜひたくさんの人に知ってもらいたい内容でした。
 まず初回の「地方在住20代 まちなか暮らし女子 と考える“暮らし方と豊かさ”」からどうぞ。

(ファシリテーター)
中川玄洋氏(NPO法人学生人材バンク代表理事、一般社団法人まるにわ監事)
(ゲスト)
中村彩氏(株式会社nido代表取締役、一般社団法人まるにわ理事)
(パネリスト)
高橋さくら氏(株式会社鳥取銀行、東京都出身)
田畑英野氏(株式会社鳥取銀行、東京都出身)

中川
 今回のまるにわweekでは、マツキビルを拠点に、このまちの中でしてみたいことを、意見交換や共有できたらいいなと考えています。2日間、ゲストと一緒にオンラインラジオのようなトークセミナーをできればと思っています。zoomのチャット機能もあるので、オンライン参加の方もぜひつぶやいてください。ゆるくやろうと思いますので、よろしくお願いします。てか、みんなすごい緊張してるんだけど(笑)。まず、そもそもの話から、まるにわについて中村彩さんに説明してもらいましょうか。

会場は鳥取駅前にある遊休ビルの一角
ライターは藤田和俊さん(https://www.facebook.com/kazutoshi.fujita.5)です

▽「まるにわ」って?見つめるのは「暮らし」

中村
 一般社団法人まるにわは、本業が銀行、学生人材バンクの代表、ものづくりとデザイン、塗装、設計と、得意分野が異なるメンバーの集団です。2015年7月にあった第2回リノベーションスクールがきっかけで、鳥取大丸の屋上で事業をするために立ち上げ。2016年11月に”まるにわガーデン”をDIY中心に屋上につくり、その後「今日のサイトウBAR」として語らいながら飲む企画をやり、2017年には山陰三ツ星マーケットの立ち上げのフォローを1年間しました。
 新たに始めるマツキビルのプロジェクトは、以前は陶器店で、その後バラエティーショップとして雑貨などを売っていた5階建てのビルを、シェアハウスやシェアスペースに活用していきます。構想は、2018年から。民藝館通りで大型の空き店舗の利活用を考え始め、民藝のイメージが変わったことがきっかけです。民藝って古いものではなく、日常を大切にする暮らし方なんですよね。その感覚が今と非常に近いものがあって、私たちも新しい解釈で転換できるんじゃないかと思ったんです。
 もともとまるにわのテーマは「For life」、暮らすということです。それについて外の視点も交えて考えてみようと思い、今日は東京からIターンで鳥取に来てまちなか暮らしをされている女性2人にきてもらいました。まちの魅力とか、豊かさの原資とか、暮らし方の価値観の多様性とか、色々話していけたらと思います。

中村彩氏(株式会社nido代表取締役、一般社団法人まるにわ理事)

▽「暮らし」を優先し、就職で鳥取移住。

(鳥取銀行5年目の高橋さん、同じく鳥取銀行3年目の田畑さんは、東京都出身で就職と同時に鳥取にやってきた仲間意識もあるのか、とても仲が良さそうな先輩&後輩。というより友達?姉妹?というような雰囲気でした。僕自身もそうでしたが、鳥取の若者は都会に憧れて出て行く人が多い中、彼女たちが地方に来たかった理由とはー)

高橋
 鳥取には大学の卒業旅行で来て、「この砂丘を一年中見ていたいな」と思いました。生まれた時から22年間、東京都で暮らしたので、東京と正反対の場所に興味を惹かれました。母の実家は長野県でしたので田舎暮らしは知っていたんですけど、全然知らないところで冒険したかったんです。

田畑
私も大学卒業までずっと東京で暮らしていて、就職の時に「ずっと東京に暮らさなくてもいいわけだな」と思って。祖父母が鳥取に住んでいて、小さい時から年に1回くらいは遊びに来ていて、穏やかな感じがいいなと思っていました。今は駅前で一人暮らしをしています。

中川
僕も静岡県沼津市から大学で鳥取に来て、在学中にNPOを作ってしまい、そのまま残って今に至るわけですけど、周りからは「なんで鳥取なの?」と聞かれませんでした?

高橋
100回くらいは聞かれました(笑)。卒業旅行後に、鳥取の会社に電話し始めたんですけど、「本当に来るの?東京に住んでいるんだよね?」と驚かれてばかりで、「もうこれは行ってしまうしかない!」とバイトで貯めたお金で来ちゃいました。来た初日にハローワークで旅館での就職が決まりました。それまで接客業をしたことがなかったのでやってみたかったんです。

中村
暮らしが先に来て、仕事が後だったんですか?

高橋
住もうと決めてから、どうやって生計を立てようかなって。東京と地方を比べた時に家賃が全然違うし、可処分所得が多いのがゆとりある生活につながると思いました。東京に住んでいる時は、あまり自分の暮らしが楽しいと言えなかったので、鳥取の生活は想像以上に良かったです。自然もたくさんあるし、行ってみたいところもたくさんあって、ご飯は安くて美味しいし。

田畑
就職先をどこにするかで暮らし方も決まるんだなって思ったのが最初でした。鳥取で仕事を探そうとした時、いきなり農業とか漁業をする自信もなかったので銀行に就職しました。住んでみたら家の周りは想定していた以上に静か(笑)で、駅前なのに星が見えます。東京から急に生活が変わりすぎるのも自分が追いつかないかもしれなかったので、駅前を選びました。

高橋さくら氏(株式会社鳥取銀行、東京都出身)

▽住めば都。まちなか=コンパクトという喜び

(田舎といえば、自然豊かな生活を求めて移住するパターンを想像しがち。でも、まちなかに住む二人の話を聞いていけば、選択肢はそればかりではないことがわかってきました。地方のまちなかに住むことの良さって、地元の人間からすると案外気づかないものなんですよね)

中村
田舎暮らしの本とかみると、ナチュラルな暮らしじゃないと来ちゃだめとか覚悟を問われるような気にもなるけど、まちなか暮らしはハードルが低いかもしれないですね。自然も近いし、のどかだけど、一応まちだし。二人は車は持っていますか?

二人
歩きとバスと汽車です。

高橋
職場まで徒歩で、3分40秒の曲が終わるくらいに会社に入れます。何かを食べたいとか、買い物に行きたいとか、これを体験したいとか、徒歩圏内で必要なところは行けてしまうコンパクトさがいい。車がなくて困らない?と聞かれることがあるんですが、私は大丈夫ですね。

中村
コンパクトゆえに、人間関係や距離感の近さはどう?

田畑
確かにありますけど、その分、いろんなところで知り合いが繋がるのがすごい。「友達の友達は友達」みたいな感覚で、移住してきた身でも知り合いがどんどん増えました。ただ、すっぴんでコンビニに行かないようにしないといけません(笑)

中川
あと、そもそも若者が少ないし、さらに主張する若者は少ないから「こんなことをしたい」という声を発信しておくと繋いでくれる人が多いよね。この仕事を始めて5年もしないうちに、米子の商店街で「玄洋くん」と声をかけられた時はもうこのまちでは悪いことできないなと思ったから(笑)

中村
確かに「こういうの探してます」「こうしたい」というフラッグを立てておくと、そこに行き当たることは多いかも。知らず知らずに繋いでくれる人がいたり、いい意味でお節介焼いてくれるというか。良い意味で垣根がない。

(視聴者から「柿が美味しそうとフェイスブックでアップしたら、柿が届いたことがあった」というつぶやきがありました。わかる・・・。玄関先のサンタクロース的な贈り物は、「鳥取あるある」です)

田畑英野氏(株式会社鳥取銀行、東京都出身)

▽選択肢の少ないのも、田舎の良さ

(都会に憧れた若かりし頃には気づけなかったりするんですが、「何もない」と嘆いていた鳥取にも良い点はけっこうあります。一つは、むしろ弱点だと思っていた「何もないこと」。情報過多の時代には、その選択肢の少なさが良い方に作用することもあります)

高橋
鳥取に来た当時の移住市場は、東日本大震災の後で子どもたちにとっていい暮らしを求めた人や、退職後の生活を求めた人が多く、大卒の若者がそのまま移住するパターンはあまりなくて「えっ!」という反応が多かったんです。だから「この人口が少ないところに来てくれてありがとう」と言われたことは嬉しかったですね。

中川
そうそう。2011年ごろは高齢者の移住がメインだった。新卒で来るという流れはここ2、3年くらいだし、地方大学に進学した県外者が残るのもありだよねっていうのが増えてきたのは、暮らしやすさという価値観が出てきたから。東京から地方に行くのは、選択肢が多いところから少ないところへ、選んで減らしていく選択。逆に、地方から東京へは、ないところからあるところへ飛び込むような選択だよね。

田畑
東京だといろんなものが溢れすぎてよくわからない。鳥取だと、いい意味で自分の手の中に収まるというか。そんな感覚があります。

中村
私は高校卒業して8年住んで鳥取に帰ってきました。出るときはないものが欲しいから刺激に、情報に溢れる世界が楽しくてしようがなかったけど、気づいたら自分がそれらに合わせていたり、ねじを巻き過ぎたりしていた。自分のチューニングが壊れそうだったけど、鳥取に帰ってきて、少ないけど自分のペースでじっくり向き合えるなって改めて感じました。

中川玄洋氏(NPO法人学生人材バンク代表理事、一般社団法人まるにわ監事)

▽地方で自分がつくる暮らし

(地方って自分が選択した暮らしを案外とやりやすかったりもします。二人も自分らしい暮らし方を鳥取の地で開拓している様子。ひたすらお酒好きをアピールする田畑さんが面白かったです(笑)。でも、それも田畑さんらしいというか。その人の日々の満足感こそ、豊かさのような気がします)

中川
地方で暮らす面白さは「自分たちで(生活を)つくれる」こともあるかと思う。まるにわも、マツキビルをつくっていこうとしていたり。お二人は自分たちの暮らしをどうつくっていかれてますか?

田畑
私は本当に飲むのが好きで(笑)。飲み屋街から家までも徒歩5分なんです。気がすむまで飲んで、終電を気にすることなくワイワイできるのが嬉しい。

中村
そう、東京で働いていたときに嬉しかったのが、「今日飲んで帰ろ」っていうのが急に決められるんですよね。鳥取だと「2週間前までに言って」とか(笑)、なかなかそうはいかない。

高橋
私は今でも観光客の気持ちでバスや汽車に乗って、文化財を見に行ったり、工房とかに行ってみたり、自然体験をしたり。バスで20分とか、汽車で30分とかで行けちゃう。大学のときは電車も3本乗り継がないといけなくて、駅構内を700m歩くみたいな。山陰本線は本も読んでいられるし、車窓の景色も私にとっては馴染みのない景色。楽しいですよ。

中村
プチトリップ、高橋プレゼンツ「ことりっぷ」って見てみたい。「そんな過ごし方あるんだ」と鳥取の人からすると新鮮だと思う。お金かけなくてもリフレッシュできたり、見ているようで見ていなかった景色を発見できそうな気がします。

高橋
まちを見るのが好きなんですよね。初めて行ったまちでまず市バスに乗ると、どこに何があるか、どんなまちなのかがなんとなくわかる。今でも100円バスのくる梨に乗って、あんなところに知らない店がある、今度行ってみようとなったり。鳥取大学が開発したバスネットという検索アプリが本当便利なんですよ。地元の人はあまり知らなかったりするんですけど。

中川
今度やろう、勝手にガイドをするツアー。それも配信しましょうか。交通機関を面白がる的な。

「暮らし」についての価値観で話は盛り上がりを見せる

▽外で見てきた理想のまちづくり

(ここで、国内外を飛び回る中村さんがこれまでに見たまちで印象に残ったところをご紹介してくださいました。)

中村
 出張が多くて、いろんなまちに行ってものづくりの人に会っていると、暮らし方が素敵な人がいるんですね。そういうことを考えるたびに、鳥取の人と重ねたり、まるにわの活動と重ねたりしちゃうんです。これまでに見てきて気になったまちを少し紹介します。

●メルボルン(オーストラリア)
 3年前くらいに行ったんですけど、世界で最も住みやすい都市ランキングで7年連続1位になったまち。なるほど、これはいい!と思ったことが二つ。むちゃくちゃカフェ文化が盛んなまちで、夜はサーっと帰るけど、みんな朝が早い。7時から勉強したり、朝ごはん食べたり。朝が賑わっているのを見て、鳥取にもこれはいいんじゃないかと思いました。 
 もう一つが、ストリートアート。まちが指定しているエリアは自由に落書きしていいよってなって、市がマップを作って観光客も回ったりします。描く方も楽しいし、それが資産にもなるし、そんなにお金をかけていないのがいい仕組みだなって。アートはまちの中でアイコンになりやすいから、暮らしを刺激するコンテンツになりやすいし、共感の輪を広げやすいなって思いました。
 アートってことでいうと、まるにわも落書きイベントもかつてやりました。大丸の屋上でベンチを作ってもらったり、壁に絵を描いたり、芝生を敷く前に好きに落書きしようって時には100人以上来てくれたかもしれない。想定以外のところも塗っちゃって(笑)。みんなで一個の作品を作るとか、もともとあったところをリメイクすることでプラスの付加価値が生まれたり、世代が繋がったり、人も呼べるし、ビジュアル的にも発信力があるなと思いました。
 ただ、私たちがやったことは一過性に過ぎなかったのが残念だったんです。民藝館通りに残るものにプラスアルファで私たちの解釈を乗せたときにどんなものを残していくか。都会の真似でもなく、私たちだけのメッセージを残せたらいいなって、アートに関しては思う。

 以前にやった「今日のサイトウBAR」が盛り上がり、日によっては玄洋さんがやったり。旧吉田医院の前庭でやった時もひとり旅している女性がふらっと来てくれたり、意外と感度高い人が集まってくれるなと思ったんですよね。誰にでもというよりは、「こういう人たちに」というターゲットがあったような気がする。それがコンパクトなエリアでまとまって、心地よい拠点がまちなかに点在するのがいい。その人がいるから人が繋がるというのもあるので、そういうのを繋ぐ人がいることも大事な気がします。

 (その他、富山の和紙職人さんや沖縄のガラス職人さんの生き方、地域での暮らし方を紹介。
そこでしかできない暮らし方を自分で実践していると、周りの共感を呼び、人を巻き込んでいって繋がるということが伝わりました。そういう人たちって決して義務感でなく、自分自身が100%楽しみながら、かつチャレンジしているんですよね。そういう自分らしく生きるキーマンの存在は、これからの地方に必要だと思いました。)

民藝館通り”旧吉田医院”前庭で開催した#今日のサイトウBar(2018年5月)

▽自分らしい暮らしをつくっていく

中川
マツキビルでこんなことをしてみたら面白いだろうなと思うことはありますか。

高橋
モノづくりで言えば、山陰三ッ星マーケットで指輪をつくってみたり、お皿やお花のアートみたいなのつくったり。そういうのができる場所になると楽しいだろうなと思います。

田畑
この前の大丸の屋上をワークショップでペンキ塗りをしたのが楽しかったんです。みんなで作業をするのっていいなと思いました。あとは、だらだら飲んでそのまま寝られる場所もつくりたい(笑)。

中川
子供ができてから感じるのが、気をつかわずに自分の時間を満喫するのが難しい女性が多い。うまく抜ける場所がなかったり、抜いちゃいけないんじゃないかっていう女性が多い気もする。

高橋
お母さんやること多いですよね。職場のお昼で、毎日のお弁当を見ているとみんなちゃんと料理されていてすごいなって。冷凍ご飯じゃなくて、毎日ご飯炊くとか大変そう。

中村
必ずこうじゃないといけないとか、そうじゃなくてもいいよね。どうしても固定概念に引きずられて「こうあるべきだ」という、役割が増えて「今はお母さん」「今は妻の時間」とかつい思いがちなのはすごいわかります。私の場合は、仕事から離れて子供と過ごす時間が息抜きになっていて、刺激にもなっていますね。それぞれ自分の暮らし方を見つけていくことが大事なのかもしれませんね。

トーク後の会場にて

▽epilogue

(まとめ)
「暮らし方と豊かさ」というテーマ。これは生きていく中で、多くの人が考えることじゃないでしょうか。まちなか暮らしをしている2人は、静寂さや自然が多いこと、コンパクトなエリアを有効に使うことなど、都会的な視点で鳥取を見ていました。それって地元民からすると意外というか。そういう暮らし方もありなんだと思わせてくれました。
 視点を変えれば魅力の所在は変わってきます。「ない」と思っていたところに「ある」ものもあるし、都会とは違う鳥取だからこその暮らし方があります。個人的に今回のトークで、豊かさというのは、「自分が自分の好きな暮らしを選択していくこと、もしくは、つくっていくこと」なんじゃないかと思いました。もちろんそれは、まちなかに限ることではないのですが、コンパクトに人やモノ、コトが集まりやすいまちなかの強みはあるような気がします。
 さて、マツキビル。ここがどんな場所になっていくか、まだ全ての形が決まりきってはいませんが、その余白部分はみんなでつくっていくことができると思うんです。自分たちがつくる、自分たちの暮らし。その拠点となっていく場所になるといいなぁと、楽しそうに話す4人の輪を見ながらそんなことを考えていました。

「豊かさ」をテーマに何気ない日常、ライフスタイル、ドキュメンタリーを撮影します。鳥取在住。ライター、編集者兼。